3月24日、おかやま100人カイギ vol.14が開催されました。今回も引き続きオンライン形式で、多くのみなさんにご視聴いただきました。
トーク本編だけでなく、YouTubeのコメント欄を介したクロストークも大いに盛り上がりを見せました。
それでは、5人のゲストによるトーク内容を中心に、当日の模様をレポートします。
【イベントレポート】
vol.14のファーストバッターは、浅口市寄島町を拠点にeスポーツを通した街おこしに取り組む小笠原 修(おがさはら おさむ)さんです。代々牡蠣漁師を営む家に生まれた小笠原さん。幼少期からゲームに熱中していましたが、18歳で高校を卒業すると同時に結婚して家業に入るころには、自然とその熱も冷めていたそうです。転機になったのが、我が子の小学校入学。自らの小学校時代は80人ほどいた同級生が20人ほどになっていることを知り、過疎化が進むふるさとの現状に「これ、やべえな」と肌で実感することになりました。
このまま寄島で漁業に携わることに不安を抱いた小笠原さんは、祖父や父と対立。一時は養殖の仕事に手がつかないほどになります。その結果、自宅で過ごす時間が増えたことで、子どものころに親しんだゲームとの再会が訪れます。インターネットを通して、世界中のプレーヤーと共通の趣味で盛り上がる。その経験は寄島、そして自身の将来について思い悩んでいた小笠原さんにとって、大きな救いになったといいます。
生まれながらの「お祭り男」だという小笠原さんは、同じようにeスポーツに救われる人もいるはずだと、誰もが交流できる場をつくるべくゲーム実況を開始。配信の場で「実は俺、牡蠣漁師なんよ」と打ち明け、牡蠣を参加賞にしたゲーム大会を主催します。当初は30人程度の参加を見込んでいましたが、ふたを開けてみれば180人以上が集まる盛況ぶり。地元での牡蠣の購買層は50代以上が中心だそうですが、高校生の参加もあるなど、eスポーツをからめた街おこしの可能性を見出す結果になりました。
その後も取り組みを継続するなかで、笠岡市や山口県の畜産家、山梨県のフルーツ農家など、eスポーツという共通項を持つ生産者とのイベントも開催するようになった小笠原さん。牡蠣についても、いまやウェブだけで月200件の受注が舞い込むほど、認知度が向上しました。次なる目標は、瀬戸内地域にeスポーツ文化を根づかせること。2019年に立ち上げたeスポーツイベント会社・アンカーズの旗振り役として、まだまだ数少ない地元プレーヤーの受け皿をつくるべく奔走しています。
続いては、高梁市川上町で日本茶専門店・茶や まのび堂を営む西原 千織(にしはら ちおり)さんが壇上へと上がります。東京出身で、3年ほど前に高梁に移住してきた西原さん。東京時代には日本茶インストラクターの資格を取得し、日本茶専門店での勤務、カフェ経営などを経験してきました。お茶と深く関わるなかで出会ったのが、茶道とは異なり急須を使ってお茶をたてる煎茶道です。
通常は高級品の玉露を使う煎茶道ですが、あるお茶の席で出された一杯に玉露とは異なる味わいのよさ、そして体にすっとなじむ感覚を覚えた西原さん。それが本来であれば「いいお茶」とはされない番茶だと知ったことが、高梁へと移り住む契機になりました。このとき、口にしたのが品種改良のされていない在来種。農薬が使われておらず、木の力がそのまま出るお茶に「これが私が求めていたお茶だ」との確信を持ったといいます。
しかし、一方で在来種の番茶は栽培に手間がかかることなどから、絶滅の危機に瀕していました。自らが求めていたお茶を守っていかなくてはという使命感に駆られた西原さんは、在来種の生産者のもとをめぐる「お茶の旅」を敢行。初訪問時には在来種を探し出すことができなかったものの、肌感覚で「ここ、絶対在来種あるな」と感じた高梁に通い詰めるなかで、かつて備中松山城主にも献上されたと伝わるお茶の木を見つけ、移住を決意しました。
移住後は、高梁のお茶の魅力を向上させるべく活動を開始。まのび堂オリジナルの「おひさま番茶」の開発、時代に合わせたパッケージデザインをはじめとした既存商品のブラッシュアップなどを通し、地元に伝わるお茶の文化を後世に伝えようと積極的に動いています。地域の宝と移住者ならではの視点が相乗効果を発揮する、西原さんの取り組み。今後がますます楽しみです!
さて、3組目のゲストは、こちらも関東から岡山へと移り住んだ過去を持つ料理家・今枝 ゆかり(いまえだ ゆかり)さんです。岡山市で料理教室・viortoを主宰し、コロナ禍の現在はオンラインサロンなどにも力を入れる今枝さんですが、意外にも移住以前に岡山との接点はなかったそう。関東大震災の発生を受けて新たな居住地を探していたところ、「おいしそうだから」という直感が働き、岡山での暮らしを決意したというから驚かされます。
そんな今枝さん、もともとは香港の航空会社に勤務していた経歴の持ち主です。仕事先で世界各地のおいしいものにふれるなかで、特に心を打ったのがイタリアの家庭料理でした。足繁くイタリアに通うようになり感じたのが、イタリアの一般家庭ではその土地で生産された食材がふんだんに使われているということ。郷土の旬が色濃く反映されたそのスタイルは、生産者との距離が近い岡山での教室運営にも大きな影響を与えています。
「レシピは渡すけど、その通りにつくらなくていいよ」が今枝さんの基本的なスタンス。自らが暮らす土地で、その日に手に入るもので献立を組み立てられるのが、本当の料理上手だと話します。具体例として挙がった県産の牡蠣と黄ニラを使った餃子は、まさに山海の幸に恵まれた岡山だからこそできるグルメのひとつ。見るからにおいしそうな写真を目にした牡蠣漁師の小笠原さんも「明日、つくります」と興奮気味でした。
料理家としての今枝さんが心に留めているのは、「食いしんぼうは世界を幸せにする」という、一見壮大なテーマ。しかし、常においしいものを食べ続けるためには、心身ともに健康でいなければならないほか、環境問題への配慮も必要になるなど、さまざまな条件が伴います。食という営みを通して、多様な社会課題と向き合う今枝さん。その一端にあるのが「岡山に住んでいる人にこそ、岡山のおいしいものを知ってほしい」という思いなのかもしれませんね。
4組目のゲストは、2019年に地元・津山市にUターンし、持続可能な暮らしを追求するパーマカルチャーを実践中の木多 伸明(きた のぶあき)さんです。こう聞いて多くの人が抱く疑問、それは「パーマカルチャーって何?」というものではないでしょうか。パーマネント(永続性)とアグリカルチャー(農業)、 さらにはカルチャー(文化)を掛け合わせたパーマカルチャーは、1970年代のオーストラリアで提唱された概念。自分も人も大切に、地球も大切に、豊かさの分かち合いの3つを基本理念に、環境負荷の少ない豊かな暮らしを実現するのがその狙いです。
実際、木多さんは妻、幼い息子とともに、自ら建てた4畳半の小屋で自給自足の生活を送る張本人。こちらもお手製の土窯でパンを焼き、電力はソーラーパネルでまかない、お風呂は五右衛門風呂で……といったように、その暮らしぶりは確かに自然に優しいものですが、一見不自由に映ります。しかし、その様子を語る木多さんはどこか楽しそう。というのも、ニュージーランドでの新婚旅行(それも3000キロにもおよぶロングトレイル)ののち、単身渡米した先で参加したパーマカルチャーツアーにいたく感銘を受けたからです。
現地でパーマカルチャーを実践する人物と出会い、その活動が条例や法律までを動かしたことを聞かされた木多さん。当人は趣味の延長線上という認識だったそうですが、地元の子どもたちから「街を変えたヒーロー」と慕われるその姿に、人を巻き込んで志を貫けば社会は変わるという実感を持ったといいます。また、行程をともにした友人からの「自然のなかで衣食住のすべてをまかなうのは厳しいが、普通の生活に戻ると感謝の思いが生まれる」という言葉にも刺激を受けました。
「ヒーロー」自身から「Be a hero!」というメッセージを贈られて帰国して以降は、迷うことなくパーマカルチャーに基づく生活に入り、周囲の協力も得ながら豊かな人生のあり方を追い求めている真っ最中。そんな木多さんが考える次なる動き、それはパーマカルチャーをより多くの人に知ってもらうことです。カメラマンという肩書きを持つ木多さんらしく、その方法はドキュメンタリー映画の制作によるもの。どんな仕上がりになるのか、いまから楽しみです。
vol.14、最後のゲストはともに備前焼作家を夫に持つ木村 敦子(きむら あつこ)さん、藤田 恵(ふじた めぐみ)さんのおふたりです。玉野市出身の木村さんは、備前焼の窯元に嫁いで20年近く。一方の藤田さんは、同じ和歌山県出身の備前焼作家の妻として、それぞれ「備前焼ではない形で」備前焼の魅力を発信しようと努めています。お互いが暮らす備前市伊部地区の魅力を語るところからスタートしたトークは終始、地元への愛にあふれたものになりました。
そもそも2人が「備前焼ではない形で」をコンセプトに掲げたのは、自らが備前焼作家ではないからというところに理由があります。焼物そのものを愛好する人にのみ、備前焼やその文化を伝えようとしてもその年齢層はどうしても限定的になるもの。ならばと、つくり手ではない自分たちらしい感覚で、より幅広い人々に街そのものに関心を持ってもらうための活動を開始したのです。
その第一弾となったのが、「BIZEN PRODUCT」と名づけられた備前焼グッズの開発。デザイナーとの打ち合わせを重ねながら、備前焼の紋様があしらわれたノートや一筆箋をつくり上げました。一筆箋に関していえば、備前市を遠く離れた街にも届くもの。本物ではない一筆箋が誰かのもとに届くからこそ、本物を知りたいという気持ちを呼び起こせるのではという藤田さんの語りには、思わずうならされました。
もうひとつ、2人の活動で見逃せないのがSNSの活用です。人気ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』に岡山出身かつ備前焼作家の孫という設定のキャラクターがいることに着目し、郷土愛の強さから思わずツイッターに応援の投稿をしていた2人。するとゲームの開発元とのコラボレーションの話が舞い込み、オリジナルの湯呑みの開発にまで至ったのです。
こうした領域横断に楽しさを感じる木村さんと藤田さん。備前焼の里から、今度はどんな「ワクワク」が生み出されるのか、期待が膨らみますね!
【クロストーク】
イベント後半に行われたクロストークは、YouTube上で進行。ゲストそれぞれに接点も見つかり、和やかにコミュニケーションを深めている様子が印象的でした。