「天気予報は晴れと言っていたけど、なんだかきょうは雨が降りそうだな。」そう思っていたら雨が降ってきた、という経験を持つ人は多いのではないか。テレビ朝日報道ステーションの気象予報を担当しているウェザーニューズの喜田勝氏は、そんな1人1人の直感が、災害時にも的確な判断をできるきっかけになると話す。防災減災をテーマに気象予報に取り組んできた喜田氏に、知っておくと役立つ情報の考え方について尋ねた。
減災を意識 分かってもらえる天気予報を
―まず、これまでの仕事の中で大事にされてきたことを教えてください。
気象に関わる仕事を始めたのが、1996年です。報道ステーションを担当するまでは、主にテレビ局のサービス、インターネットやモバイルなどの一般向けの予報を担当していたことが多かったです。その中で一番大切にしてきたことが、減災です。災害は、被害を失くすことはできなくても、小さくすることはできるだろう。もっと言うと、毎年気象で亡くなる方がいますが、亡くなる方をゼロにすることはできるだろうと。ですから、減災という視点はすごく意識してやってきました。あとは、いかに情報をわかりやすく伝えていくか。天気予報って専門用語がとても多いんですよ。一般の方には分かりにくいものを、どうかみ砕いて話をするか、伝わるか、分かってもらうかというところを、一番考えてやってきたかなと思います。
―気象の知識として、一般の人に知っておいてほしいことは
注意報・警報というのは、ある一定の広いエリアで出されていて、必ずしもそのエリア全体で、危険な状況になるとは限らず、ごく一部かもしれません。また何事も起きなかったという結果も多々あります。注意報・警報で大切にされているのは、「見逃しをしない」ということなんです。災害が起きそうだというときにはきっちり警報が出ている、というのが大前提。そのためどうしても「空振り」があるんです。自分が住んでいるエリアで、いままで警報が何十回何百回と出ていても、一度も災害を経験したことがない、という方は多いと思います。でも、100回大丈夫だったから、次の101回目も大丈夫だとは限りません。101回目、自分が今まで経験したことがないような災害に合うかもしれないということを、普段から考えておくことが必要だと思います。
自分の住んでいるところの危険度を知っているか
―特別警報が出るようになったことで、警報だと大したことがないと考えてしまう人もいるかもしれないですね
多いと思いますよ。我々も思うんですけど、警報が出すぎていますよね。人って「逃げろ」と言われて逃げて何事もなかった、ということを何回か繰り返すと、逃げなくなるじゃないですか。でも、それではいけないということを、認識していくことが必要です。そのために大切なのは、自分が住んでいる場所が危険なのか、そうじゃないのか、ということを“知る”ことだと思うんです。例えば、自分の家の標高って分かりますか?
―自分の家の標高…考えたこともなかったです
そうですよね。でも私は知っておくべきだと思うんですよ。いまはインターネットで調べたら、何メートルってすぐ分かりますから。そういったことをしていると、警報が出たときも、ここに留まっていていいのか、避難したほうがいいのか、という判断もより的確にできるのかなと。むやみな避難もなくなってくると思います。
―雨に関しても、何ミリと聞いたときに、どれくらいの雨なのかがピンとこないまま、ニュースを聞いている人も多いのではないかと思います
「このくらいの雨が降ると危ない」という目安は知っておいてほしいですね。例えば、「過去の記録を破るような雨になると危ない」ということです。東京での今までの最高の雨は何ミリだ、ということを99%の人は知らないと思いますが、ご自身が住んでいるところがどうかいうことだけでも、ちょっと調べて知っておくだけで、違うのではないかと思います。
―情報に対して受け身になるのではなく、情報を受け取ったときに、自分が住んでいるところの危険はどれくらいか、などを判断できるようにならないといけないですね
それによって避難の仕方が変わってくるということです。「避難してください」と聞いたときに、多くの方は「避難所に行く」というイメージが浮かぶと思います。でも、避難の仕方はそれだけではないんですね。例えば、友人の家、親戚の家、でもいいわけです。垂直避難というように、マンションに住んでいる場合、上の階の知人の部屋に一時的に避難させてもらう、という方法もあるわけです。いろんな避難の仕方がありますが、何か起きそうだというときに考えてもたぶん動けないと思うので、普段から調べて準備しておくことが大切だと思います。
自分の感覚を信じてほしい
―コラムを読む方に伝えたいメッセージは
これは多くの方に言っていることなのですが、「自分の感覚を信じてほしい」です。例えば雨の降り方とか風の強さが「いつもとは違う」とか。「なんか嫌な感じ」でもいいと思うんですよ。「今までに経験したことがないようなことが起きそうだ」とか、そういうときは非常に危ないということを知ってほしいんですよね。感性を研ぎ澄ますことが大切だと思っています。
―直感や、嫌な予感を大事にしてほしいということですね。
直感にしても、本当は過去の経験から来ていると思うんですよ。「あれっ?」と思うのは、過去の経験の積み重ねで、「なんかちょっと違うぞ」ってとこから来ていると思うので。
昔、ウェザーニューズで五感予報というのをやったことがあるんですけど、空を見て「このあと天気どうなる?」というのを、一般の人から集めるんですよ。本当に降りそうなときはみんなが「雨が降りそう」と言うんですよね。あるとき、「このあと関東で雪が降ります」と予報が出ているにも関わらず、一般の方に聞くと「雪なんか降る感覚じゃない」と9割以上の人が言ったことがありました。それは気温だとか、空気感でしかみんな言っていないと思うんですよね。予報はどこもかしこも雪と言っているわけですから。実際、雪は降らなかったんです。そういうこともあるんですよね。人の五感は非常に優れていると私は思うので、そこはしっかりと信じて行動に移してほしいです。
―最後に、地方の人にも持っておいてほしい意識があれば
岡山・香川は、比較的雨が少ないエリアです。岡山は「晴れの国」とも呼ばれていますよね。たしかにその通りなんですが、雨が少ないからこそ、雨の災害に他のエリア以上に注意を払ってほしいと思います。雨がもともと多いエリアは、雨に対しての備えが普段からできているケースが多いですね。普段、雨が少ないと油断しがちですし、少しの雨でも、災害が発生する可能性があると考えてもらって、普段から備えをしっかりしてほしいなと思いますね。
喜田勝(きだ・まさる)
1996年にウェザーニューズ入社
報道気象チーム所属
テレビ朝日ウェザーセンター統括、報道気象チームリーダーなどを歴任。
取材/文:笠原慎太郎